01. 6.18
○月×日 仕事から帰宅後、寝付いた子どもたちの様子を見に
子ども部屋へ行く。蹴飛ばした布団を首までかけてやる。
起きてる時は憎たらしいが、寝ている姿はホッとする。
その時突然シューの寝言
「うぇ〜ん、おかあさんやめてよ〜。も〜おかあさんなんか好か〜ん。
びえ〜ん、おかあさんのバカバカバカ〜!」
「・・・おい、シューどうした?」何だ今の悲痛な叫びは。
そのまままた寝入ってしまった。一応確認したが体にアザはなさそうだ。
下に降りて念のため妻にやんわりと確認する。
「まさかとは思うけどおまえオレのおらん間に子どもに虐待とかしよらんやろね?」
「アホ!」
翌日シューから事情聴取するも自分の見た夢さえ「おぼえとらん」の一言。
証拠不十分にて不起訴処分。
○月△日 今夜の帰宅は久々の午前様。寝ている妻にばれないように
寝室をこそ〜と通り抜けクローゼットへ・・・
「一体もう何時と思うとると!」
ギクッ!いかん!起こしてもうた・・・
「いやもうオレが帰ろう言うのにみんながもう一軒もう一軒いうて・・・」
「はよ宿題して寝らんね!明日起ききらんよ!」
ヒュ〜、何や寝言やったんかい。しかし夢の中まで怒られてソーシも不憫やなあ。
○月□日 ボクはスイスの高原にいた。
あっ、ペーターが羊を連れて山を登っている。
丘の上にはどこがで見た少女が2人。やっぱり間違いない、ハイジとクララだ。
何やら様子がおかしい。2人のもとへ駆け寄るとハイジがボクに声をかけてきた。
「おじさん・・・」
「はい?」
「クララが・・・立ったの・・・」
「えっ?」
「クララが立った!クララが立ったの!」
何ということだ。どうやらボクはあの再放送のたびに幾度となく見た
クララが立つ瞬間の現場に立ち会っているらしい。
それはちょうどなかなか立てなくて弱気になるクララを
「クララのバカあ!バカバカバカあ!」とハイジがなじった直後、
今まさにクララが立ち上がったその時らしい。
どうしてよいか分からずにたたずむボクをよそにハイジは叫んだ。
「ペーター!おじいさ〜ん!クララが立ったあ!」
ペーターはすぐ近くにいたがおじいさんが見当たらない。
「よし、ハイジわかった、落ち着きなさい。おじさんが今おじいさんを連れてくるから、
君たち2人はここで待ってなさい。。。えっ?おじいさんのこと?分かってる、アルムオンジだろ。」
ボクは自分のおかれた状況に少し戸惑いながらも精一杯の正義感を振り絞った。
こうしちゃいられない。早くアルムオンジに知らせなければ。
偶然にもそこには一台の自転車が横たわっていた。
ボクはその自転車にまたがり一面緑色の草原の中をアルムオンジの家に向かってペダルをこいだ。
確かTVではクララが立ち上がった現場はおじいさんちのすぐ近くで
ハイジが叫ぶとすぐにおじいさんは出てきたような気がしたが
実際にはかなりおじいさんちは離れていた。
どこまでも続く草っ原を風を切って思いっきりペダルをこいだ。
「おじいさあん!クララが立ちましたよお!」
ボクはそう叫びながら両足を交互に蹴ってペダルをこいだ。
目に涙を浮かばせながら早くおじいさんに知らせたい一心で力いっぱいペダルをこいだ・・・
ビシッ!!
「あんたあ!なんしよっとねえ!いい加減にしなさいよお!」
「・・・ん?ロッテンマイヤーさん?」
違う。それは妻だった。。。
夢と現実のあまりのギャップの激しさにボクは一瞬事態を飲みこめなかった。
どうやら夢中でペダルをこいだボクの足は妻の顔面に
十数発のキックを見舞ったらしい。
感動的な夢の世界から突然に引き摺り下ろされたあまりにも恐ろしすぎる
現実の世界をボクはとうてい直視することができるはずもなく
そのまま寝たふりをしておく以外にはよい方法が見つからなかった。
死んだふりを決め込むボクに妻が何やら叫んでいる。
まさに地獄絵図、朝起きたらなんて言い訳しよう。
こうなったらいっそのこと逆切れしてみるか?
「おまえ夕べオレの足に頭突きかましたろがあ!」
だめだ、火に油間違いなし。。。
しかしそんな状況の中、ほほを伝う涙を拭いながらもボクはまだ
夢の余韻に浸っていた。
ごめんよハイジ・・・おじいさんを呼びにいけなくて。
すべてホントの話です。
とにかくうちは寝ている間も騒々しい。
寝言、ハギシリ、いびき、けたぐりとにかくなんでもありの
はよ寝たもん勝ちの「夢見る家族」なのである。
しかしこの話に長男「枕のソーシ」は出てこない。
彼は我が家で唯一寝たら最後、寝言はおろか
「忍ぶ雨」の藤正樹、「高校三年生」の舟木一夫も真っ青の
直立不動のまま朝起きるまで微動だにしないというとても寝相の良い
睡眠界のサラブレッド、我が家の突然変異、永田町の変人、
ニューヨークメッツの宇宙人、・・・とにかくそんな存在なのだ。
「昨日お父さんとお母さんが同時に死んだ夢を見た」朝でも
平然と普段と変わらないいつもの朝を過ごしている。
そんなヤツなのだあいつは。