モリタ
01.5.16
先日久々に小学校時代の母校を訪ねてみた。
校舎はすっかりモダンに建て変わり当時の面影はほとんどない。
それでもボクはある思い出の場所の前にどうにかたどり着き目の前の
校舎の壁をじっと見つめた。当時とは全く違う真っ白な壁を。
でもすぐに当時の薄汚れてひび割れたコンクリートの灰色の壁が
ボクの眼の前に広がった。
ここはボクとモリタとの忘れられない場所だった....

モリタとは幼稚園に入る前からの友達だった。
モリタはいつも鼻水をたらし、いつもボロボロの服を着ていた。
そしていつも自分のことを「わし」と呼んでいた。
眉毛が太く「巨人の星」の星飛雄馬の子ども時代の顔に似ていた。
モリタは少しおっちょこちょいだが優しい性格でボクとモリタの関係は
ボクが兄貴分でモリタが弟分と言う感じで彼はいつもボクのわがままを
受け入れてくれた。

小学2年の時だった。ボクとモリタと、もう一人ター坊の3人は
当時今のモー娘。以上に大人気だった中3トリオを応援する役割分担を
話し合っていた。
「おいモリタ、オレが桜田淳子のファンになるからモリタおまえは今から
森昌子のファンだ。」
「え?....わし山口百恵がよかばい....」
「だめだ。山口百恵はター坊だ。いいやないか森昌子で。あの髪型
かわいかろーが。それに森昌子のモリはモリタのモリとおんなじばい。」
「....うんわかった。」
いやいや納得したモリタだったが彼は次の日には「せんせい」の歌詞を
フルコーラス覚え、登下校時に大声で歌い本当は好きでもない森昌子を
一生懸命応援していた。
モリタはそんな奴だった。

そんなモリタとボクはある土曜日の放課後、校庭からは死角になる
校舎の外壁に落書きをしようと思いついた。
2人で何を描こうか考えた。ある考えを思いついた。ボクは小声で
「モリタ、イワムラ先生描こうや。」
「いいねえ」
イワムラ先生はぼくらの担任でかなり太めのおばあちゃん先生。
ボクとモリタは何かにつけてよく怒られていた。
ボクらは2年生の手の届く範囲で目いっぱいの大きなブタの絵を
茶色い石で描きその下に「イワムラ先生ブヒブヒブヒ〜ン」と書き込んだ。
そのあまりの出来栄えのよさにボクらは地面の上をランドセルを背負ったまま
腹を抱えて笑い転げた。
調子に乗って次から次にイワムラ先生に対する日頃のうっぷんを
晴らすべくメッセージを書いた。それに飽きると今度は
仮面ライダー、ウルトラマンなど思い思いの落書きを広いキャンパスに
それぞれ描いた。

帰りながら2人は約束を交わした。
「いいかモリタ、あの落書きはイワムラ先生に見つかっても絶対に
オレたちじゃないって言い張ろうな。約束だぞ。」
「うんわかった!」
2人は心地よい達成感に酔いしれながらそれぞれの家に分かれた。

しかしこの爽快感はあまりにも短く終わってしまった。
数分後家に帰ると玄関に母親が仁王立ちしていた。
「こらあんた〜!!学校でなんばイタズラしてきたねえ!!」
一瞬何のことかわからなかった。鬼の形相をした母親は続ける。
「イワムラ先生から電話のあったよ!モリタくんとはよ落書きば
消してこんね!!」
母親はそう言って僕に雑巾を投げつけた。
ボクは圧倒され一目散に学校へと走った。

なぜだ。なぜばれたんだ。ボクとモリタの仕業だってこと。
しかもこんなに早く。
仕事は完璧だった。ボクらは描いてる間誰一人に見られてはいない。
細心の注意を払っていたはずだ。
モリタが誰かにしゃべった?そんなはずはない。それに見つかるのが
あまりにも早すぎる。

途中モリタと合流した。モリタも走って学校に向かっていた。
「モリタ、何でばれたとや?」
「わからん。わしじゃなか」
モリタも面食らっていた。
やがて学校に着き犯行現場にたどり着くとそこにはバケツと雑巾を持った
イワムラ先生が仁王立ちしていた。
イワムラ先生はボクらが描いたブタの絵よりはるかに「ブヒブヒブヒ〜ン」と
怖い顔をしていた。
先生監視の中、ボクらは雑巾で落書きを全部消すことになった。
怖くて先生には聞けなかったがボクとモリタの仕業と
ばれた理由は程なくわかった。
「....モリタ...」ボクは壁を指差した。
「あっ...」
モリタは落書きに熱中するあまり丁寧にも自分の名前とボクの名前までも
落書きの最後に署名していた。まったくドジな奴だ。
「....ごめ〜ん」

そんなモリタとの付き合いは長くは続かなかった。
ボクは生まれて初めてささやかな自分の誕生会を友達を呼んで開いてもいいと
母親から許可され、嬉しくて仲のいい友達を誘った。
もちろんモリタも。しかしモリタの返事はつれなかった。
「いつ?6月の22日?...ゴメン行けんよ。
わし...その日に引越しするんよ。」
ショックだった。モリタはその日に同じ市内の学校に転校するのだ。

誕生会は予定通りおこなったが心のどこかでモリタのことが気になっていた。
夕方になり会も終わりかけた頃、家のベルが鳴った。モリタだった。
「モリタ!来てくれたんか。上がれよ」
「ううん、わしここでよか。ちょっと来て。」
モリタはボクを外に呼び出し、茶色いクシャクシャになった駄菓子屋の
袋を差し出した。ボクへの誕生日のプレゼントだった。
「わしん家、貧乏やけん、よかプレゼント買いきらんばってん、わしの
貯金で買うたもんやけんもろうて。」
中を開けると10円単位で買ったお菓子やアメ、ガムに混じって
100円くらいのちっちゃな飛行機のプラモデルが入っていた。
モリタの気持ちがものすごく嬉しかった。
「モリタ、今日で最後やろが。うちでみんなと遊んでいかんね。」
「うん、ばってん引越しの車ば待たせとっけん、わしは帰らんばいかん。
元気でね。そいぎんた!(それじゃさようならの意)」

それがモリタとの最後の会話だった。その後小学校を卒業したあと
ボクも中学校で転校しモリタとの距離はますます遠くなり
ボクはモリタがどこにいるのかもわからなくなってしまった。
そして高校生になりボクはたまたまモリタと同じ中学校だったという奴と
知り合った。
ボクはモリタに無性に会いたかった。彼にモリタの居所を尋ねた。
「モリタ?..ううん紹介してもいいけど...」
彼は歯切れが悪かった。とりあえず彼は中学の卒業アルバムで
モリタの写真を見せてくれた。
そこには髪の毛がまっきんきんのリーゼントで鋭角の剃り込み、あんなに
太かったゲジゲジ眉毛もきれいさっぱりなくなってしまい変わり果てた
モリタがそこにいた。口元からボロボロに欠けた歯が見え、眼は鋭く
写真の中からボクを睨みつけていた。
小学校の頃のおっちょこちょいで優しかった面影がその写真では
かけらも残っていなかった。
「.....あと10年ぐらいしたら会おうな。」ボクを睨み付けるモリタにそう
心の中でつぶやいてボクはアルバムを閉じた。

あれから10年どころか20年の歳月が過ぎた。
モリタは今どうしてるだろうか。最近またすごく会いたくなった。
「探偵ナイトスクープ」に捜してもらおうかとも思ったが
それほど大したエピソードでもないので断念した。
全国の「森田君」の中でこのエピソードに心当たりのある方
どうかメールください。会いたいです。
ただしせめて眉毛だけは元通りに戻っている事を願っています。




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